2026.08.24
マンション管理組合
幕末に学ぶ、マンション機械式駐車場の空き問題解決術 ―鋼製平面駐車場という現実解―
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特別決議の“分母”が「全区分所有者・議決権の各4分の3」から「総会出席者の各4分の3」へ。定足数も新たに整理されました。これまで“あと数票”で否決され続けてきた機械式駐車場の平面化は、この改正で本当に通しやすくなるのか——可決ラインの動き方と、見落としがちな実務の注意点まで掘り下げます。
「修繕費がかさむ機械式駐車場を、思い切って平面化したい」。多くの管理組合がそう考えながら、総会の特別決議という高い壁の前で足踏みしてきました。稼働率は下がり、点検費と更新費だけが積み上がっていく——それでも、欠席者や所在不明の所有者が“事実上の反対票”になり、必要な票数に届かない。そんな構図を根本から変えるのが、2026年4月1日に施行された改正区分所有法です。
この改正は、約23年ぶりとされる大きな見直しで、正式には「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」に基づくものです。2025年5月に成立・公布され、施行日は2026年4月1日。建物と居住者の“二つの老い”が進むなかで、管理と再生の意思決定を前に進めることが狙いです。本稿では、変更の核心である特別決議の要件緩和と定足数の見直しを整理したうえで、それが機械式駐車場の平面化という具体的なテーマにどう効くのかを、実務に引きつけて解説します。
この記事でわかること
今回の改正は多岐にわたりますが、管理組合の日々の運営に直接効いてくるのは、おおむね次の4つです。順に押さえておくと、平面化のような個別テーマにも応用が利きます。
このうち、機械式駐車場の平面化に最も大きく作用するのが、最初の二つ——出席者多数決の導入と定足数の整理です。まずはここを丁寧に分解していきます。
改正前の区分所有法では、規約の変更や共用部分の重大変更などの特別決議は、「区分所有者総数および議決権総数の各4分の3以上」の賛成が必要でした。ここでの分母は“全員”です。つまり、総会に来ない人、委任状も議決権行使書も出さない人は、賛成にも反対にもカウントされないようでいて、実際には「賛成の母数を満たせない要因」として、結果的に反対と同じ重みで効いてしまいます。
所有者の高齢化、賃貸化による不在オーナーの増加、相続放置による所在不明者——こうした“無関心層”が増えるほど、4分の3という壁は実質的に高くなります。理事会がどれだけ丁寧な計画をつくっても、「賛成は多いのに、母数に届かず否決」という事態が全国の管理組合を悩ませてきました。
改正法では、共用部分の変更に関する決議要件が見直され(改正法17条1項など)、定足数を満たすことを前提に、「出席した区分所有者およびその議決権の各4分の3以上」で可決できるようになりました。分母が“全員”から“出席者”へと切り替わったわけです。総会にまったく関与しない人は母数から外れるため、駐車場問題に向き合っている人たちの意思が、そのまま結果に反映されやすくなります。
ここがポイント:「出席者」には誰が含まれる?
改正法上の「出席者」は、当日会場に来た区分所有者だけではありません。書面(議決権行使書)で議決権を行使した人、委任状で代理人に議決権行使を委ねた人も「出席者」に含まれます。逆に言えば、これらの票を集めることは、定足数の確保と可決ラインの双方に直結します。「出席者多数決だから委任状はもう不要」ではない点に注意してください。
分母を出席者にすると、「ごく少数しか出席していない総会で重大事項が決まってしまう」という懸念が出てきます。そこで改正法は、決議の種類ごとに定足数の扱いを整理しました。
日常的な管理運営に関する普通決議は、従来必要とされていた定足数の考え方が外れ、出席した区分所有者および議決権の各過半数で決議できる仕組みに改められました(改正法39条1項)。欠席者が母数に含まれないため、出席率の低いマンションでも運営判断が止まりにくくなります。
一方、特別決議には新たに定足数が置かれました。区分所有者総数の過半数、かつ議決権総数の過半数を有する者の出席が必要で、これを満たしたうえで出席者の各4分の3以上で可決します。これに合わせて、国土交通省のマンション標準管理規約も、総会の基本の定足数を「議決権総数の半数以上」から「過半数」へと見直しました。重大な意思決定には“最低限これだけの参加は確保する”という安全弁が組み込まれた、と理解するとよいでしょう。
| 項目 | 改正前(〜2026年3月) | 改正後(2026年4月〜) |
|---|---|---|
| 賛成の母数(分母) | 区分所有者・議決権の 各「総数」 | 区分所有者・議決権の 各「出席者数」 |
| 可決に必要な割合 | 各4分の3以上 | 各4分の3以上(割合は同じ) |
| 定足数 | 明文の定足数なし (事実上、全員が母数) | 区分所有者・議決権の 各過半数の出席 |
| 欠席者・所在不明者の扱い | 実質的に反対と同じ重み | 母数から外れる |
注目すべきは、「4分の3」という割合そのものは変わっていない点です。変わったのは“何に対する4分の3か”という分母の取り方。ここが今回の改正の本質であり、平面化のような重大変更が通りやすくなる理由の核心です。
機械式駐車場の撤去・平面化は、駐車場という共用部分の形状または効用の著しい変更(重大変更)に該当すると解されるのが一般的です。そのため、原則として総会の特別決議が必要になります。つまり、これまで述べてきた「特別決議の分母が変わった」という改正が、そのまま平面化の可決ハードルに効いてくるのです。
補足:工事内容によって決議区分は変わりうる駐車設備の単純な更新やハイルーフ化など、「著しい変更」に当たらないと判断される工事は普通決議で足りるとする見解もあります。一方で、撤去して平置きに転換する平面化は重大変更とされる例が多いものの、最終的な決議区分は工事内容と各組合の管理規約によって異なります。自己判断せず、管理会社・マンション管理士・弁護士などへの確認を前提にしてください。
平面化を検討する組合が増えているのには理由があります。若年層の車離れやカーシェアの普及で稼働率は下がる一方、機械式設備は定期点検費に加え、十数年単位での部品交換・全面更新に多額の費用がかかります。築20年前後で「数百万円規模の修繕提案が届いたが、半数以上の区画は空いている」というケースは珍しくありません。維持を続けるか、思い切って平面化して将来コストを圧縮するか——この判断を総会に乗せたとき、立ちはだかってきたのが特別決議の壁でした。
過去に「賛成は多かったのに、所在不明の区分所有者や無回答の欠席者が足を引っ張り、あと数票で否決された」という苦い経験を持つ組合ほど、今回の改正は再挑戦の現実的な追い風になります。母数が出席者に切り替わることで、関心を持って意思表示した人の声が、票として正しく積み上がるからです。
総会で賛同を得るには、感情論ではなく数字で語ることが欠かせません。判断の物差しになるのは、おおむね次の3点です。第一に稼働率の趨勢——空き区画が増え続け、回復の見込みが薄いなら、設備をフル維持する合理性は揺らぎます。第二に将来コストの比較——機械式を維持した場合の点検費・部品交換費・全面更新費を30年程度の長期で積み上げ、平面化の初期費用と維持費圧縮効果を並べて比べます。設備台数を減らすことで、長期のトータルコストが維持継続より小さくなるケースは少なくありません。第三に安全性のリスク——経年劣化による落下事故などのリスク情報があれば、それも判断材料になります。これらをアンケート結果や見積りとともに資料化し、説明会で共有することが、無関心層を「賛成の出席者」へと動かす起点になります。
抽象論ではイメージしづらいので、議決権がほぼ均等な100戸のマンションを例に、平面化の特別決議がどう変わるかを見てみましょう(数字は理解のための単純化モデルです)。
平面化議案:100戸・賛成意向は45戸の場合
「賛成45・反対15・無関心(欠席かつ無回答)40」という、不在オーナーや所在不明者が多い典型的なマンションを想定。
改正前分母は全100戸。可決には75票が必要
賛成45票では、必要な75票に遠く及ばない。無関心層40戸が事実上の壁となり、否決。
→ 否決(あと30票足りない)
改正後定足数を満たせば、分母は出席者。可決には出席者の4分の3
賛成45+反対15の計60が出席(委任状・議決権行使書を含む)。定足数(過半数の出席)を満たし、分母は60。可決ラインは60×3/4=45票。賛成がちょうど45票で可決ライン到達。
→ 可決の可能性(無関心層40戸は母数から外れる)
同じ「賛成45戸」でも、結果が正反対になりました。これが分母の取り方の威力です。ただしモデルが示すとおり、改正後は「出席者をどれだけ集められるか(=定足数の確保)」と「出席者の4分の3を取れるか」の二段構えになります。委任状・議決権行使書を集めて出席者の母数をつくる努力は、むしろ以前より重要になる場面もあります。
「分母が変わったから簡単に通る」と早合点すると、思わぬところでつまずきます。平面化を進めるうえで、改正後も変わらず——あるいは改正後だからこそ——気をつけたい論点を整理します。
特別決議には「区分所有者・議決権の各過半数の出席」という定足数があります。出席率が極端に低いと、そもそも決議が成立しません。総会前の説明会、議案要領の早期配布、委任状・議決権行使書の回収など、参加を引き上げる地道な働きかけは引き続き欠かせません。
共用部分の変更が特定の区分所有者の専有部分の使用に特別の影響を及ぼすときは、多数決とは別にその所有者の承諾が必要です。たとえば平面化で駐車区画が大幅に減り、現在の利用者が敷地外で駐車場を確保せざるを得なくなる——こうしたケースでは、影響を受ける所有者への個別説明と承諾、代替駐車場の検討が実務上のカギになります。4分の3が取れても、この同意を欠けば計画は前に進みません。
一定規模以上の建物に駐車場の設置を義務づける附置義務条例が、都市部を中心に存在します。平面化で台数を大きく減らすと条例の基準を下回る場合があり、事前に自治体と協議し、緩和の認定手続きを経る必要が出てきます。決議だけでなく、行政手続きを並行して進める段取りが求められます。
平面化には鋼製平面化工法、埋め戻し工法、固定化工法などがあり、地盤や地下ピットの有無で採れる工法が変わります。費用は規模や工法で大きく異なり、小規模なら数百万円、大型では数千万円規模になることもあります。維持し続けた場合の30年トータルコストと比較し、修繕積立金・一時金・管理組合向けローンなど資金計画まで含めて議案化することが、住民の納得を得る近道です。
平面化の合意形成を阻んできた最大の要因は、賛否の対立そのものよりむしろ、「誰が所有者なのかわからない」「連絡しても反応がない」という管理の空白でした。改正法は、この問題に二方向からアプローチしています。一つは前述の出席者多数決による“無関心層の母数からの除外”、もう一つが新設された所在等不明区分所有者の除外制度です。
改正法では、区分所有者やその所在を知ることができないとき、その所有者(所在等不明区分所有者)以外の区分所有者または管理者の請求により、裁判所が「一般区分所有者による集会の決議をすることができる」旨の裁判をする制度が設けられました。この裁判を経ると、所在等不明区分所有者は集会における議決権を持たないものとして扱われます。重要なのは、この制度が建替え決議だけでなく、規約変更などの特別決議や普通決議を含む決議全般に及ぶとされている点です。相続放置で連絡先不明の住戸が混在するような高経年マンションでも、平面化の決議を前に進める道が用意されたわけです。
注意:裁判所手続きには準備と時間がかかる所在等不明者の除外は、出席者多数決のように総会運営だけで完結するものではなく、裁判所への申立て(非訟手続)と所在調査などの準備が前提になります。すべてのケースで必要になるわけではなく、まずは出席者多数決と委任状・議決権行使書の回収で可決の見通しが立つかを検討し、それでも所在不明者がボトルネックになる場合の選択肢として位置づけるのが現実的です。手続きの要否や進め方は弁護士に相談してください。
制度面の追い風があっても、出席者多数決には「定足数(過半数の出席)を満たす」という前提があります。結局のところ、議案要領を早めに配り、平日夜と週末昼など複数回の説明会を設け、なぜ今この工事が必要なのかを数字とともに丁寧に伝える——こうした地道な対話が、出席率と賛成票を底上げします。改正は“可決の天井”を下げてくれますが、“出席の床”を引き上げるのは依然として現場の努力です。
ここは誤解が多いところです。結論から言うと、改正法は施行日から自動的に適用されます。改正法の附則には、施行の際に現に効力を有する旧法に基づく規約の定めのうち、改正法に抵触するものは施行日からその効力を失う、という経過規定が置かれています。
したがって、管理規約に「区分所有者総数および議決権総数の各4分の3以上」という旧来の特別決議要件が残っていても、その部分は新法に抵触するため無効となり、新法の「出席者の4分の3」が適用されます。出席者多数決をより重い要件(従来の全員を分母とする方式)に“上乗せ”する規約は、強行規定との関係で認められない、というのが行政・実務の整理です。
それでも規約改正が「強く推奨」される理由
法的には新法が優先適用されますが、規約に旧要件が残ったままだと、いざ平面化の総会で「規約には全組合員の4分の3と書いてある。この決議は無効だ」と主張する組合員が現れ、無用の混乱や決議無効をめぐる争いに発展するリスクがあります。役員や組合員が規約を読めば決議要件がわかる状態にしておくことが望ましく、国土交通省も標準管理規約を改正のうえ、決議要件のアップデートを最優先で行うよう促しています。平面化を本気で進めるなら、規約の決議要件・定足数の表現を新法に合わせて整えておくのが安全です。
改正を追い風にしつつ、つまずきどころを避けて進めるための大まかな流れを整理します。
補足:バリアフリー化・瑕疵除去はさらに緩い「3分の2」今回の改正では、共用部分の重大変更のうち、耐震性不足や給排水管の腐食といった瑕疵の除去に必要な変更、エレベーター設置などのバリアフリー化については、決議要件が「4分の3」ではなく「3分の2」に緩和されました(改正法17条5項)。機械式駐車場の平面化は通常これには当たらず原則4分の3ですが、工事の目的・内容によっては関連する論点になり得るため、専門家に確認しておくと安心です。
改正区分所有法で特別決議の要件はどう変わりましたか?
従来は「区分所有者総数および議決権総数の各4分の3以上」が必要でしたが、2026年4月1日施行の改正法では、定足数(区分所有者の過半数かつ議決権の過半数の出席)を満たしたうえで「出席した区分所有者およびその議決権の各4分の3以上」で可決できる出席者多数決に変わりました。割合(4分の3)は同じで、分母が“全員”から“出席者”へ移ったのが本質です。
機械式駐車場の平面化は普通決議と特別決議のどちらですか?
撤去・平面化は共用部分の形状または効用の著しい変更(重大変更)に該当すると解されることが多く、原則として特別決議が必要です。ただし工事内容や各マンションの管理規約により判断が分かれる場合があるため、管理規約の確認と専門家への相談を前提にしてください。
管理規約を改正しなくても、新しい「出席者の4分の3」のルールは使えますか?
はい。改正法は施行日から自動適用され、旧法に基づく「全区分所有者の4分の3」と定めた規約のうち新法に抵触する部分は施行日に効力を失うため、新ルールが適用されます。ただし規約に旧要件が残っていると「規約と違う」との混乱や決議無効の主張を招きやすいため、規約の更新が強く推奨されています。「出席者」には委任状や議決権行使書も含まれますか?
含まれます。現実に会場へ来た区分所有者に加え、書面(議決権行使書)で議決権を行使した人、委任状で代理人に委ねた人も「出席者」に含まれます。定足数の確保と可決の双方に効くため、これらの回収は引き続き重要です。
平面化で駐車場を失う利用者がいる場合、4分の3の賛成だけで進められますか?
進められない場合があります。共用部分の変更が特定の区分所有者の専有部分の使用に特別の影響を及ぼすときは、多数決とは別にその所有者の承諾が必要です(区分所有法17条2項)。区画を失う利用者への個別説明・承諾と代替駐車場の検討が実務上不可欠です。
過去に否決された平面化議案を、もう一度総会にかけてもよいですか?
差し支えありません。むしろ今回の改正で分母が出席者に変わったことで、以前は無関心層に阻まれて否決されたケースでも、可決の現実味が増しています。前回の反対・懸念点を踏まえて議案を磨き直し、説明会と票の積み上げを丁寧に行うことで、再挑戦の成功率を高められます。
免責事項:本記事は2026年6月時点で確認できる公開情報をもとにした一般的な解説であり、特定の管理組合に対する法的助言ではありません。決議区分の判断や規約の解釈、平面化工事の進め方は、各マンションの管理規約・工事内容・地域の条例によって異なります。実際の意思決定にあたっては、必ず弁護士・マンション管理士・建築士などの専門家にご相談ください。条文番号や運用の詳細は、施行後の政府公式発表もあわせてご確認ください。
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