2026.08.04
マンション管理組合
機械式駐車場の更新を10年先送りすると、費用は1.5倍に──「部品供給終了」と「工事費高騰」のダブルパンチ
25 views
15 views
「クルマ社会」を前提に積み上げられてきた駐車場の設置基準が、いま大きな転換点を迎えています。カーシェアの普及、宅配需要の急増、機械式駐車場の維持管理問題——。2027年度に向けて進む駐車場の設置基準緩和(附置義務の見直し)について、制度の基礎から国・自治体の最新動向、そして実務への影響までを一気に整理します。
街なかの再開発ビルやタワーマンションには、必ずと言ってよいほど駐車場が併設されています。これは建物の所有者が任意で設けているのではなく、多くの場合「附置義務」という法律上の仕組みによって設置が求められているからです。ところが、その前提となっていた「クルマの需要」が、ここ数年で大きく変わりました。本コラムでは、2027年度に向けて進む駐車場の設置基準緩和の全体像を、できるだけ平易な言葉で解き明かしていきます。
日本の駐車場行政は、長らく「駐車場が足りない」という前提で組み立てられてきました。高度経済成長期にモータリゼーションが進み、路上駐車が交通の妨げとなったことから、建物を建てる際には敷地内に十分な駐車スペースを確保させる——という発想です。その結果、都市部には附置義務によって整備された大量の駐車場が積み上がってきました。
しかし2020年代に入り、この前提が揺らいでいます。とりわけ大都市圏では、若年層を中心に「自家用車を持たない」という選択が当たり前になり、カーシェアやライドシェアが日常に溶け込みました。その一方で、ネット通販の拡大による宅配トラックの出入りは爆発的に増えています。つまり、「住民が停める乗用車」は余り、「荷物を運ぶ車両」は足りないという、需要のミスマッチが顕在化しているのです。
こうした実態と制度のズレを正すために、国と自治体が足並みをそろえて動き出したのが、2027年度に向けた駐車場の設置基準緩和です。単なる「規制緩和」ではなく、現代の都市生活に合わせて駐車場の役割を再定義する作業だと捉えると、その意義がよく見えてきます。
設置基準緩和の話に入る前に、土台となる制度を押さえておきましょう。駐車場をめぐるルールの中心にあるのが駐車場法(1957年/昭和32年法律第106号)です。この法律は、都市の道路交通を円滑にし、都市機能の維持・増進に寄与することを目的に、駐車施設の整備に関する基本的な事項を定めています。
駐車場法に基づき、地方公共団体(都道府県や市区町村)は条例によって、一定規模以上の建築物を新築・増築・用途変更する際に、その建物や敷地内へ一定台数の駐車施設を設けることを義務づけることができます。これが「附置義務制度」です。必要な台数は、建物の用途(店舗・事務所・共同住宅など)と延べ床面積に応じて、たとえば「延べ面積◯◯平方メートルごとに1台」という形で計算されます。
この附置義務がかかるのは、主に交通が集中する「駐車場整備地区」や商業地域・近隣商業地域、そしてその周辺の都市計画区域などです。地域によって対象や台数の考え方が異なるため、同じ規模の建物でも立地によって必要台数が変わります。
条例は自治体ごとに定めるものですが、内容がバラバラでは混乱を招きます。そこで国土交通省は、各自治体が条例をつくる際の参考となる「標準駐車場条例」というモデルを策定しています。多くの自治体がこれをベースに自前の条例を整えているため、標準駐車場条例の改正は、全国の附置義務の方向性を決める重要な”号砲”となります。今回の設置基準緩和も、この標準条例の見直しを起点として全国に波及していく構図です。
ここが重要駐車場の設置台数は「国の法律 → 国の標準条例(モデル) → 各自治体の条例」という三段構えで決まります。国が大枠を変え、自治体が地域事情に合わせて具体化する。だからこそ、緩和は全国一斉ではなく、自治体ごとに時間差で進んでいきます。
今回の見直しは、大きく分けて「国の制度改正」と「自治体の条例改正」という二つの層で進んでいます。まず国が制度の器を整え、それを受けて各自治体が地域の実態に合わせて条例を改めていく——という流れです。順に見ていきましょう。
国土交通省は2022年10月に「まちづくりにおける駐車場政策のあり方検討会」を設置し、社会情勢の変化を踏まえた今後の駐車場政策を議論してきました。その成果を踏まえ、2025年(令和7年)3月28日に標準駐車場条例の改正と技術的助言を通知。歩きたくなるまちづくりや土地の有効活用といった、新しいまちづくりの視点が色濃く反映された内容になっています。主な改正点は次のとおりです。
標準条例の改正と歩調を合わせ、法律の細部を定める駐車場法施行令も改正されました。最大のポイントは、これまで附置義務の「特定用途」に含まれていなかった共同住宅を特定用途に追加したことです。
背景には、超高層マンションの増加による土地の高度利用と、ネット通販の拡大による宅配需要の増加があります。マンションそのものが外部から駐車需要を生み出す存在になったという認識です。この政令は2025年(令和7年)3月7日に公布、2026年(令和8年)4月1日に施行。これにより、各自治体が条例で共同住宅を附置義務の対象にできる地域が広がりました。
| 時期 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 2022年10月 | 「まちづくりにおける駐車場政策のあり方検討会」設置 | 議論のスタート |
| 2025年3月7日 | 駐車場法施行令の改正を公布 | 共同住宅を特定用途に追加 |
| 2025年3月28日 | 標準駐車場条例の改正・技術的助言を通知 | 全国共通モデルの刷新 |
| 2026年4月1日 | 改正施行令の施行 | 自治体が条例を見直せる土台が完成 |
| 2027年度(めど) | 各自治体の条例改正が本格化 | 実際の設置基準が変わる段階 |
このように、国が2025〜2026年に制度の枠組みを整え、それを受けて自治体が2027年度に向けて条例を見直すという二段ロケットの構造になっています。「2027年度の駐車場設置基準緩和」とは、この自治体レベルの動きが本格化するタイミングを指していると理解すると分かりやすいでしょう。
自治体の中でも、最も注目されているのが東京都の動きです。東京都は2026年6月8日に「東京都駐車場条例の見直しの考え方(案)」を公表し、2027年をめどに条例を改正する方針を示しました。23区を中心に自動車保有台数が伸び悩み、カーシェアの拡大もあって駐車場に空きが生まれていること、そしてEC拡大で荷さばき需要が増えていることが背景にあります。国の施行令改正や標準条例の改正を反映し、都の利用実態調査の結果も踏まえた見直しです。
見直し案の柱は、利用実態調査で「余剰傾向」が確認された共同住宅などの一般駐車施設について、必要台数を緩めることです。具体的な数値は次のように変わる方向で示されています。
| 区分 | 現行の基準 | 見直し案 |
|---|---|---|
| 区部(23区) | 延べ面積350㎡ごとに1台 | → 450㎡ごとに1台 |
| 市部 | 延べ面積300㎡ごとに1台 | → 350㎡ごとに1台 |
たとえば区部では、これまで350平方メートルごとに1台必要だったものが450平方メートルごとに1台で済むようになります。同じ規模のマンションでも、設置すべき駐車台数が目に見えて減ることになり、事業者にとっては土地や建設コストの面で大きな影響があります。
注目すべきは、すべての用途が一律に緩和されるわけではないという点です。利用実態調査で一定の傾向が確認された区部・市部の「事務所」については、むしろ基準を強化する方向が示されています。さらに、これまで附置義務台数の計算結果が一定数を超える場合に「10台」を上限にできた規定を、全用途で廃止する案も含まれています。つまり、緩めるところは緩め、必要なところは確保する——という”メリハリ”の効いた見直しなのです。
もう一つの柱が、荷さばきスペースの確保です。ECの普及で宅配トラックの出入りが増えたことを踏まえ、共同住宅にも荷さばきのための駐車施設の附置を義務づける方向です。乗用車の駐車場は減らしつつ、配送車両のための空間はしっかり確保する。これこそが、現代の都市が抱える「需要のミスマッチ」への直接的な処方箋といえます。
補足ここで紹介した数値や方針は、2026年6月時点で公表された「考え方(案)」に基づくものです。今後、寄せられた意見を踏まえて内容が調整されたうえで正式な条例改正が行われる予定です。最終的な基準は、改正条例の公布時に確認する必要があります。
なぜ、これほど大きな見直しが必要になったのでしょうか。その根っこには、駐車場をめぐる4つの構造的な社会変化があります。
大都市圏では公共交通網が発達し、維持費の負担感もあって自家用車を持たない世帯が増えています。とくに東京23区では自動車保有台数が減少傾向にあり、カーシェアリングの市場拡大もこれに拍車をかけています。その結果、附置義務で整備された駐車場には恒常的な空き区画が生まれ、「使われない駐車場」が都市の非効率の象徴となってしまいました。
乗用車の需要が縮む一方で、増え続けているのが配送車両です。ネット通販の利用が生活に定着し、マンションへの宅配は日常風景になりました。さらにドライバーの時間外労働が制限される「物流2024年問題」もあり、効率的な荷さばきスペースの確保は社会的な課題に。乗用車スペースを荷さばき用へ振り替える発想は、こうした流れの必然といえます。
多くのマンションが採用してきた機械式の立体駐車場は、定期的な点検や数十年に一度の入れ替えに多額の費用がかかります。利用率が下がっても維持費だけは発生し続けるため、管理組合にとって重い負担となっています。空き区画を抱えながら高額な修繕費を負担する——この矛盾を解消するためにも、実態に合わせて台数を減らせる制度の整備が求められてきました。
高齢化が進むなか、車椅子使用者が快適に利用できる駐車施設の確保はますます重要になっています。また、ミニバンやSUV、電気自動車(EV)など車両そのものが大型化・多様化し、従来の車室サイズでは収まりにくくなってきました。標準条例の改正で車室の高さや規模の基準が見直されたのは、こうした変化への対応です。「数」だけでなく「質」も時代に合わせる必要が出てきたのです。
もっとも実利が大きいのが、既存マンションの管理組合です。利用率の低い機械式駐車場を抱える組合にとって、設置台数を実態に合わせて見直せることは、修繕積立金の負担軽減に直結します。すでに一部の自治体では、利用実態に応じて余剰台数を減らせる認定制度が運用されています。改正により振替・緩和・廃止の手続きが整えば、平面化や台数削減の選択肢が現実味を帯びます。まずは現在の稼働率を正確に把握し、所在地の自治体の認定要件を確認することが第一歩です。
新築の事業者にとって、必要台数の減少は事業計画の自由度を高めます。駐車場に割いていた面積を収益床へ振り向けたり、共用部を充実させたりといった選択が可能になります。一方で、共同住宅への荷さばき施設の義務化や、事務所の基準強化など”締まる”部分もあるため、用途構成によっては従来と前提が変わります。計画の初期段階で、改正後の基準を織り込んだ台数試算を行うことが重要です。
附置義務台数の減少は、駐車場需要そのものの構造変化を意味します。単なる「車を停める場所」の提供から、カーシェアステーション、EV充電拠点、荷さばき・物流対応スペースといった付加価値型のサービスへ——。空き区画を新たな収益源へ転換する発想が、今後の事業の鍵を握ります。
設置基準緩和は東京都だけの話ではありません。国土交通省は2018年にも、実態に合わない附置義務を適正化するための技術的助言を出しており、緩和の流れは以前から続いてきました。すでに多くの自治体が、地域や用途に応じた柔軟な運用を整えつつあります。
共通するのは、いずれの都市も「画一的な台数規制では実態に合わなくなった」という認識に立っている点です。再開発が進む駅前エリアや、既存ストックが豊富な都心部では、新たに大量の駐車場を整備する必要性は薄れています。むしろ、すでにある駐車場をどう使いこなすか、足りない機能(荷さばきや充電など)をどう補うかへと、政策の関心が移ってきました。設置基準緩和とは、この発想の転換を制度に落とし込む作業にほかなりません。
このように「駐車場地域ルール」と呼ばれる、エリア単位で附置義務を柔軟化する手法が各地で広がっています。2027年度に向けては、こうした地域ルールがさらに拡充され、画一的な基準から地域の実情に応じたきめ細かな運用へと、軸足が移っていくと見られます。
今回の設置基準緩和は、ゴールではなく通過点です。背景にある社会変化はこれからも続き、駐車場に求められる役割は変わり続けます。今後の展望として、次のような方向性が考えられます。
第一に、駐車場の「多機能化」です。乗用車を停めるだけの空間から、EV充電、カーシェア、荷さばき、さらには防災用スペースや太陽光発電の設置場所まで、駐車場が担う機能は広がっていくでしょう。第二に、個別建物から「エリア単位」への発想転換です。一つひとつの建物に駐車場を抱え込ませるのではなく、地域で必要な台数を集約駐車場でまかなう——歩行者に優しいまちづくりと両立する考え方が主流になっていくと考えられます。
第三に、データに基づく動的な基準づくりです。今回の見直しが利用実態調査を土台にしているように、今後は実際の稼働データをもとに基準を機動的に見直す運用が広がる可能性があります。固定された数字を当てはめる時代から、需要を測りながら調整する時代へ。2027年度の緩和は、その転換の象徴的な一歩となるはずです。
「クルマが足りない時代」のために積み上げられたルールを、「クルマが余り、荷物があふれる時代」へと作り替える。2027年度に向けた駐車場の設置基準緩和は、私たちの暮らしと都市の姿を映す鏡でもあります。マンションの管理組合も、事業者も、そして街に暮らす一人ひとりも、この変化の意味を理解しておくことが、これからの賢い選択につながるはずです。
駐車場の設置基準緩和はいつから始まりますか?
国の制度面では、共同住宅を附置義務の対象に加える駐車場法施行令の改正が2026年4月1日に施行されました。これを受けて東京都は2027年をめどに条例改正を予定しており、設置基準が実際に変わるのは自治体ごとに段階的です。所在地の自治体の動向を確認しましょう。
駐車場の附置義務制度とは何ですか?
駐車場法に基づき地方公共団体が条例で定める制度で、一定規模以上の建築物を新築・増築する際に、建物や敷地内へ一定台数の駐車施設の設置を求めるものです。必要台数は建物の用途と延べ床面積に応じて計算されます。
なぜ駐車場の設置基準が緩和されるのですか?
カーシェアの普及や都市部での自動車保有台数の減少により、附置義務で整備した駐車場に空きが目立つようになったためです。一方でEC拡大による宅配需要は増えており、荷さばきスペースの確保など、需要の実態に合わせた見直しが求められています。
緩和されると既存マンションの駐車場も減らせますか?
既存建築物については、利用実態に応じて余剰台数を減らせる認定制度を整えている自治体があります。改正後は振替・緩和・廃止時の届出に関する規定が整い、管理組合が実態に合わせて見直しやすくなる方向です。具体的な可否は所在地の自治体への確認が必要です。
「2027年度」とは具体的に何を指しますか?
国の施行令が2026年4月に施行されたことを受け、各自治体の条例改正が本格化するタイミングを指します。とくに東京都が2027年をめどに条例改正を予定していることから、自治体レベルで設置基準が実際に変わる節目として注目されています。
参考・出典(一次情報)
本コラムは2026年6月時点の公表資料に基づいて作成した一般的な解説であり、特定の法的助言を行うものではありません。記載した数値・スケジュールは「考え方(案)」を含み、今後の検討で変更される可能性があります。実際の手続きや基準については、必ず所在地の自治体の最新の条例・運用基準をご確認ください。
2026.08.04
マンション管理組合
25 views
2026.08.04
マンション管理組合
13 views
2026.08.04
マンション管理組合
12 views
2026.08.04
マンション管理組合
13 views
2026.08.04
マンション管理組合
11 views
2026.08.04
マンション管理組合
11 views